「マーウェン」を見て

2018年公開 ロバート・ゼメキス監督

「BTTF」シリーズや「フォレスト・ガンプ」を手がけたゼメキス監督の公開されている作品では最新作。ゼメキス監督は割とご機嫌な作品が多いため、よーしご機嫌になるぞと思って見たがそうではなかった。「キャストアウェイ」も無人島でのシビアなサバイバル生活をギャグを交えて表現していたが、結構笑えないくらい深刻なシーンが多い。エンターテイメント性が高いと言われているゼメキス監督だがシビアな問題が描かれている。重い問題をゼメキス監督の一流の演出、脚本によってエンターテイメントとして見ることができる。

あらすじ

酒場でハイヒールが好きと言った主人公は暴漢に襲われ、それ以前の記憶をなくしてしまう。PTSDの症状に悩まされながら一人で暮らしている。箱庭療法として自分の庭で第二次世界大戦時の小さな村を舞台し、自分と身の回りの女性を模した人形を用いて写真作品を制作している。トラウマを乗り越え現実の中でも自分の人生を取り戻していく物語。

箱庭で描かれていること=自分の内なる欲求

マーウェンを模した人形以外の味方は皆女性であり、男性はナチス兵として出てくる。現実でも少しでも心を開いているのは女性である。人形劇はマッチョイズムとハイヒールが同居するマーウェンにとっての理想世界である。この二つは現実世界では相反する要素だ。彼はなぜ第二次世界大戦時のナチスと米軍との戦いを描き続けるのかと問われると「そのころのアメリカには大義があった。」と答える。ベトナム戦争以降アメリカの起こす戦争は大義を失っていく。彼は第二次世界大戦前後の大義のあるアメリカ像に固執する。アメリカ的なホモソーシャルなマッチョイズムへの憧れ、女性的なものへの憧れが複雑に入り組んでいる。

日本の深夜アニメ的想像力

根暗で友達がいない主人公。しかし友達はいないと言いつつなぜか世話をしてくれる幼馴染やバイト先の先輩がいる。クラスではのけ者にされいるが、実は優れた同人ゲームを作っている。クラスの行事は陽キャが出しゃばるので出たくない。途中で転校生がやってきてなぜか自分の作っている同人ゲームに興味を持って接してくれるのだが...どうだろう、アニメにありそうな設定ではないだろうか。ニコルはお茶に誘ったり創作を親身になって優しく接してくるのでマーウェンはその気になってしまう。マーウェンは結婚しようと言ってしまいもちろん断られてしまう。傷つけるつもりはなかったのとニコルはいうのだが恋愛偏差値0のマーウェンには通じるわけないだろと言いたくなる。こういう女が一番たちが悪い。オタクが一番傷つくやつだ。結局は趣味を共有できる幼馴染と思いが通じる。ハイヒールの収集癖があるというのも男だけど女子キャラにコスプレするオタクの心情に通じるものがあるのではないか。自分はそこまでこじらせてはいないけどそういうカルチャーどっぷりで育ったので見ていて共感もするし、痛々しかった。この物語は「BTTF」のマーティン側の物語ではなく、マーティンが来なかった世界のジョージやドク側の人たちの話だ。