「それでも夜は明ける」を見て

こんな人にオススメ アメリカの黒人の歴史を知りたい人

                                   胸くそな気分になりたい人

2013年公開スティーブン・マックイーン監督

最近アメリカでは黒人男性が白人警官による不当な暴力で命を落とした事件をきっかけにデモが行われている。人種差別は現在進行形で起きている現実だということを突きつけられる。主人公は自由黒人という立場で黒人の中でも特権階級だ。主人公をそこに設定することで普通の人たちにも見やすくなっている。自由黒人は当時アメリカにいた黒人の本当にごく一部だっただろう。マジョリティの真実ではない。しかし、当時の黒人のマジョリティの真実を描いても観る側としてもただただ暗く辛い映像体験になってしまうだろう。彼には帰る家があるが一緒に働いていた人たちは奴隷として一生を過ごす。いずれ帰るんだろうと観る側はわかっているから安心して観ることができる。

「奴隷は私の持ち物だ。」というセリフが多く出てくる。自分は自分自身が所有者であるのが近代社会の理念だ。白人がアメリカ大陸を征服してから数えきれないほどの血が流されアメリカ合衆国がつくられた。ネイティブアメリカンの追い出し、皆殺しにし得た土地に大西洋を挟んだアフリカ大陸から強制的に連れてきた人々を使役し富を築いてできた国アメリカ。アメリカの独立宣言にはネイティブアメリカンの部族同士が築いてきた取り決めが参照されたという。しかしその自由はキリスト教徒かつ白人にしか適用されなかった。野蛮なのはどちらなのだろうと考えてしまう。農園の主人として我が物で土地も人も支配している。本来はどちらも誰かの持ち物だ。(ネイティブアメリカンにとって自然は誰かの所有物なんて考えはないが)日本の中にだってここまで大規模ではないがあちこちで自分の持ち物が暴力的に奪われている。アメリカの白人は野蛮で土地と人の命を奪った大変だなで終わってはいけない。日本も戦前、戦中を通して朝鮮半島、台湾、東南アジア諸国を植民地支配をしてきた。奴隷制はなかったが暴力による支配という点においては同じだろう。現在も沖縄に米軍基地を押し付けたり、都内へ電気を送るために作られた原発の事故の後始末や補償だって十分でない。

奴隷制がなくなったのはこの映画の舞台になった19世紀前半に比べて進歩したのかもしれない。しかしこの痛ましい事件が起きている点で白人(あるいは征服者)の意識はこの時代から変わっていない。他者を所有=征服するという意識がなくならない限り環境問題も人種平等も解決しないだろう。