「リアリティのダンス」を見て

こんな人にオススメ 

2014年公開 アレハンドロ・ホドロフスキー監督

ホドロフスキー監督の両親と自身の原体験について物語。父は共産党員でウクライナから移民。母はユダヤ系ロシア人で父の代でアルゼンチンに移民してきた。鉱山の採掘が主な産業のチリのトコピジャが舞台。威圧的な父は男らしさを常にアレハンドロに求める。とにかく妻にも威張り散らしていてシエスタ中に売り物の下着を見ていたらムラムラしてしまい体を迫るなどモラハラ男である。ラテン系の人が多いトコピジャではユダヤ人であるこの家族はどこか疎外感を感じながら生活している。鉱山の作業はダイナマイトによる事故が多く彼らはペストをもっているとまちの人たちから忌み嫌われていた。共産主義者で正義感の強い父は独裁者イバニェスを暗殺を試みサンティエゴに乗り込む。失敗し秘密警察に捕まってしまう。そして命からがらトコピジャに戻ってくるというのが大まかあらすじ。

スターリンを理想的な人物と崇拝するがイバニェス暗殺のために彼の馬の飼育係になるが彼に感情移入して暗殺は失敗する。そのショックで父の両手は動かなくなってしまう。そこで母は父が尊敬するスターリンのなかにイバニェスがあり、イバニェスの中にに彼がいるといい、その肖像写真を燃やすよう促す。これがまさにサイコマジックだ。スターリンを信奉し家庭の中にまでスターリズムを持ち込み、それはイバニェスがチリで行っているのと同じ姿だ。そのことに気づいてしまったショックはスターリンとイバニェスと同一化してしまった自己を破壊しなければ立ち直ることができない。散々な思いをしてスターリズムから決別をした父であったが、この続編の「エンドレス・ポエトリー」では今まで通りの威圧的で強権的な父像に戻っている。息子にとったら堪ったものではないが、フィクションのようにある出来事があったからといって人は図式的には変わることができないということなのだろう。

海辺の行者の挿話が個人的に好きだ。この行者は見た目は完全にやばいやつなのだが、般若心経を唱えながらアレハンドロに三日月と星、十字架、六芒星のペンダントを渡し、これらは坩堝に入れれば一つになると教える。ここに監督の宗教に対する考え方がよく見えてくる。

母はいつもオペラ調で話す。その姿は滑稽なのだが、物語がより演劇的に見えてくる。母なるものは自分を超えたところあるということなのだろうか。「エンドレス・ポエトリー」で初めてできる恋人役と同じ俳優なのは予算の都合なのかも知れないがエディプスコンプレックス的な仄めかしなのだろうか。

この物語は生を受けてから物心ついてから何と無くこの世界が自分の居場所でないような感覚を描いている。彼がこの世界に着地するのは「エンドレス・ポエトリー」で家出をした時なのではないだろうか。